5-2-8 油分計測器及び油膜計測器

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1. はしがき

 油分・油膜は、天然水中には存在しないが、ガソリンスタンド・洗車場・自動車整備工場における排水、各種の工場排水、船舶のビルジ、タンカのバラスト排水などによって排出され、環境水を汚染する。とくに、海域の水質汚濁の多くは、油濁によるものとされている。
 水中油の測定法は、JIS K 0102「工場排水試験方法」に" ヘキサン抽出物質" 及び" 四塩化炭素抽出物質"、" 不揮発性炭化水素" として、その試験法が規定されている。厳密にいえば、いずれの方法も、通常" 油分" と呼ばれる物質を選択的に定量するものではないが、現在、他に油分を測定する適当な方法がみつからないため、これらの試験法が用いられているにすぎない。
 ヘキサン抽出法は、主として揮散しにくい鉱物油及び動植物油脂類の定量を目的とするが、これらのほかヘキサンに抽出された揮散しにくいものも同時に定量される。また、この方法は、ヘキサンに抽出された物質の質量を測定する、いわゆる手分析法であり、自動測定には適さない。
 四塩化炭素抽出法は、環境庁(現環境省)告示(昭和51年(1976 年)環境庁告示第3 号)に示された方法で、自動測定法として実用化されている。試料中の炭化水素誘導体、動植物油脂類、脂肪酸などや、これらの油分以外の有機物が抽出され、赤外線分析法で波長3.4 μm 付近に吸収帯を持つ成分が測定される。また、不揮発性炭化水素は、試料を塩酸酸性とし、四塩化炭素で試料中の油分を抽出し、フロリジカラムに通して、動植物油脂類を吸着、除去する。流出液を加熱蒸発し、残留物を再び四塩化炭素に溶かし、赤外線分析法により不揮発性炭化水素を測定する。
 このほかの自動油分測定法には、紫外線照射による紫外蛍光法、高分子膜を使用するオルガスタ法、におい感応膜に吸着したにおい分子質量を測定する水晶振動式などがある。また、油膜の検知法として、浮上油を油膜として検出する比誘電率法、水面に光を照射し反射光を測定する光反射法などがある。
 以下に、これらの測定方式及び特徴について述べる。

2. 測定方式

2.1 溶媒抽出赤外線分析法

 この方式は、試料を塩酸酸性にして、四塩化炭素で油分を抽出し、その含有量を赤外線分析計にて測定する。
 標準物質には、2,2,4 -トリメチルペンタン(イソオクタン)-ヘキサデカン(セタン)-ベンゼン混合標準物質(OCB 混合標準物質)が用いられる。また、抽出溶媒の四塩化炭素の代りに、無害なフロロカーボン系溶媒を用いた油分計測器もある。図1 に、重油及び四塩化炭素の赤外吸収スペクトルを示す。

重油及び四塩化炭素の赤外吸収スペクトル

四塩化炭素- NDIR 法の流路系統図の例を、図2 に示す。油分計測器に導入された試料は、ストレーナを通って、一方のツインヘッドポンプにより、一定流量で抽出器に送られる。同時に、他方のツインヘッドポンプにより、試料と同量の溶媒が抽出器に送られ、抽出器内で両者は撹拌され、試料中の油分は、溶媒中に抽出される。水と溶媒は、このあと、水フィルタを通るとき分離されて、含油溶媒だけが赤外線分析計に導入される。赤外線分析計を通過した含油溶媒は、溶媒再生器で油分を除去・貯槽され、赤外線分析計のセルR を経て、ツインヘッドポンプで、再び抽出器へ送られる。このようにして、溶媒は、計測器内で循環使用される。

四塩化炭素-NDIR法の流路系統図

この方式は、排水中に含まれる油分の性状、組成がほぼ一定な試料に適用できるので、重油から軽質油まで、ほとんど同一感度で測定できる。検出感度が高く、0.5 ppmまで定量可能で、試料の濁り、着色、懸濁物、気泡などの影響を殆んど受けない。石油系油分で揮発性成分がほとんど含まれない場合は、ヘキサン抽出物質濃度と近似的に一致するが、この測定値をヘキサン抽出法による油分濃度に代用する場合は、あらかじめ、両者の比較値を求めて検討しておく必要がある。

2.2 紫外蛍光法

 この方式は、油分を含む試料に、300 ~ 400 nm の紫外線を照射すると、400 ~ 500 nm の蛍光を発し、この蛍光の強さが油分濃度に比例することを利用した方法である。図3 に、紫外線蛍光法油分計測器の構成例を示す。試料水入口から測定槽へ連続的に流入した試料は、測定槽上部から溢出し、水面が形成される。試料水面に紫外線をが照射し、試料水中の油分は蛍光を発光する。この蛍光強度を電気信号にし, 変換器で演算させて油分濃度を測定する。油分の抽出操作が不要で構造が簡単, 無試薬で連続測定が可能などの特徴を持っている。

紫外線蛍光法油分計測器の構成例

2.3 オルガスタ法

 カーボン導電性微粒子を分散させた高分子膜は、高分子が相互に接触しているため、一定の抵抗体(10 k Ω以下)になっている。これに、油、有機溶媒などが触れると、溶媒分子が高分子膜に吸着され膨潤し、その結果、導電性微粒子間の接触抵抗が増す。オルガスタ法は、この性質を利用し油分を測定する。 図4 に、オルガスタ法油分センサの動作原理図を示す。応答速度が速い、小型・軽量、機械的ショックに強いなどの特徴を持つ。

オルガスタ法油分センサの動作原理図

2.4 水晶振動子法

 この方式は、水中油分を気相中に気化させて、水晶振動子式においセンサで測定する。水晶振動子式においセンサは, におい感応膜に吸着したにおい分子の質量を測定するセンサで, 空気中に、におい分子が存在すると, その分子がにおい感応膜に吸着して膜の質量が微増して振動子の負荷を大きくする。その結果、振動子の共振周波数がわずかに減少する。におい感応膜には、気相中の濃度が減少すると、それに応じて吸着したにおい分子を脱離させる性質があるので, 常に、におい分子濃度に応じた共振周波数を得ることができる。図5 に、水晶振動子式油分計測器の構成例を示す。ろ過された原水は、一定流量で気化部(スパージャ)に導かれる。気化部内の原水は、ヒータにより40 ℃に加温され, さらに一定流量で吹き込まれる空気によって含まれている油分が気化する。この気化した油分を含む空気は、除湿された後、水晶振動子式においセンサのある検出部に送られる。なお, 検出部は、センサ出力( 共振周波数) が温湿度変化による影響を受けないよう,23 ℃、50 % RH の恒温・恒湿状態に保たれている。この計測器の特徴は、河川などの水道原水に混入した油分を、人間の嗅覚に匹敵する高感度で検知できることである。

水晶振動子式油分計測器の構成例

2.5 比誘電率法(油膜検出)

 油膜を検出する方式で、水と油の比誘電率の差を利用している。表面が電気的に絶縁された電極板を試料に浸し、吃水面位置で、電極と試料水面に存在する静電容量を測定する。試料水下に油膜が存在すると、静電容量が変化するので、これを検知することにより油膜の検知ができる。図6 に、比誘電率法による油膜計測器の構成例を示す。水に浮かべたフロート式検知器の吃水線に相当する位置の内側に、特殊導電塗料で作られた電極が設けられており、内部回路のインダクタンスと電極一対面物質間の静電容量により構成される共振回路は、水と油の比誘電率の差により共振周波数が変化する。この変化電圧を取り出し、増幅して変換部に伝達し、リレーを介して警報回路に連結する。この方式の特徴は、簡単な構造である。

比誘電率法による油膜計測器の構成例

2.6 光反射法(油膜検出)

 この方式は、油膜と水面の光の屈折率の差を利用した方法である。一定の強さの光を水面にあてて、反射光の強さを測定すると、油膜の有無が判別できる。図7 に、光反射法による油膜計測器の検出器構造の例を示す。この計測器は、光源にレーザダイオード(LD)を使用しており、LD は水面に向けてレーザ光を発するように取り付けられている。水面に発射されたレーザ光は、反射鏡に使用している放物面鏡を介して受光部に到達する。放物面鏡は、焦点を通る法線に対して平行な光の全てを焦点に集光する特徴があることから, 配置を工夫して液面高さの変動による影響をうけないように設計されている。受光部には、太陽光など外乱光の影響を抑えるため、色ガラスフィルタを配置している。受光部の信号は、変換器に送られ電気処理され, 受光量から油膜の有無を判断し油膜警報信号を出力する。
 この方式は、油膜を形成する油はすべて検出可能、高感度、浮上ゴミ、水中懸濁物、太陽光の影響を受けないなどの特徴を持っている。

光反射法による油膜計測器の検出器構造の例

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