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5-2-2 溶存酸素計測器
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1. はしがき
溶存酸素(Dissolved Oxygen、以下DO と略す)とは、水中に溶解している酸素のことで、その濃度は単位容積当たりの酸素量(mg/L)で表す。酸素は、生物学的には水中生物の呼吸作用に不可欠であり、化学的には酸化剤として作用する。酸素の溶解度は、水温、塩分、気圧などに影響され、水温の上昇につれて小さくなる。
一般に清浄な河川では、溶存酸素は、ほぼ飽和値に達しているが、水質汚濁が進んで好気性微生物による有機物の分解に伴って多量の酸素が消費され、水中のDO 濃度が低下する。溶存酸素の低下は、微生物の活動を抑制して水域の浄化作用を低下させ水質汚濁を引き起こす。
環境計測では、1)公共用水域(河川・湖沼・海域)の環境基準監視 2)生物化学的酸素要求量(BOD)の測定 3)下水廃水処理における生物反応槽のDO 管理 4)養魚槽、水耕栽培のDO 管理 5)ボイラなどの腐食管理 6)井戸水などの水質検査 のような目的でDO 測定が行われている。
DO の測定は、JIS K 0101「工業用水試験方法」、JISK 0102「工場排水試験方法」などに規定されている。測定方式としては、ウインクラー法、ウインクラーアジ化ナトリウム変法及びミラ一変法など、DO の持つ酸化剤としての働きを利用した化学的分析方式(滴定)と、酸素ガスを透過する選択性膜(隔膜)を用いた電気化学的方式(隔膜電極法)に大別できる。
化学的分析方式では、試料液中の妨害物資(着色やにごり、硫化物や亜硫酸イオンなどの還元性物質、残留塩素などの酸化性物質)の影響を受け誤差を生じるため、測定の際は妨害物質に対応した前処理が必要である。
隔膜電極法は、DO 濃度又は酸素分圧によって発生する拡散電流又は還元電流を測定してDO 濃度を求めるもので、試料水のpH 値、酸化・還元性物質、色や濁度などの影響を受けず、再現性のある測定法として確立されており、現在、自動計測器では、この方法を採用している。
2. 測定方式
2.1 隔膜ポーラログラフ法
隔膜ポーラログラフ法の原理図を、図1 に示す。
水銀滴定ポーラログラフ法を発展改良したもので、酸素に対する透過性の高い隔膜(ポリエチレン膜、ふっ素樹脂膜など)で、電極と電解液とを試料液から遮断する構造になっている。電解液に塩化カリウム又は水酸化カリウム溶液を用いて、両電極間に0.5 ~ 0.8 V の電圧を印加すると、隔膜を透過した酸素が作用電極上で、次式の還元反応を起こし、酸素濃度に比例したポーラログラフ的限界電流が外部回路に流れる。この電流値からDO 濃度を測定する。
対極には銀- 塩化銀などが多く用いられて、作用電極には金又は白金が用いられている。隔膜については、ふっ素樹脂膜(膜厚は25μm又は50μm程度)を用いたものが多い。
2.2 隔膜ガルバニックセル法
隔膜ガルバニックセル法の原理図を、図2 に示す。
対極に卑金属を、作用電極には貴金属を用いる。
隔膜を透過した酸素が、作用電極上で還元され、DO濃度に比例して流れる両電極間の還元電流を測定する。対極に鉛を使用したときの電極反応は、次式のようになる。
電極材料については、対極は加工性、価格などの点から鉛又はアルミニウムなどが用いられている。作用電極は白金又は金などが用いられ、一部では銀も使用されている。
隔膜ポーラログラフ法と隔膜ガルバニックセル法とは、基本的には外部からの印加電圧の有無以外は共通の性能、特徴、使用法であるので、以降の特性等については両者を一括して述べる。
3. 隔膜電極法の特徴
3.1 隔膜の透過性と拡散電流
試料水と隔膜と電解槽内部との関係を、図3 に示す。
横軸に距離、縦軸に酸素濃度CS をとり、隔膜を横断的に作図したものである。酸素は隔膜を透過して電解槽内に拡散し、その透過速度D は、膜の透過率Pm と試料水中のDO 濃度CS に比例し、隔膜の厚さL に反比例する。
隔膜電極が定常状態となって発生する電流は、Mancyらの次式で表される。
ここに、
I : 定常電流の指示電流(μA)
n : 電極反応に含まれる電子の数
F : ファラデー定数(96,500 C/mol)
A : 作用電極の面積(cm2 )M
Pm : 隔膜の透過率(cm2・sec-1 )
L : 隔膜の厚さ(cm)
CS : 試料水の溶存酸素量(平衡時)
このように発生する指示電流は、試料水中のDO 濃度に比例して発生する。隔膜電極法溶存酸素計測器は、指示電流を測定してDO 濃度を求めるものである。
3.2 感度、直線性、応答性、残余電流
隔膜電極は、試料水中のDO ばかりではなくガス中の酸素に対しても感度をもち、使用上差異はなく、いずれも直線性がある。応答時間は、電解液の量、隔膜と陰極との距離などによって変わるが、各社の仕様では、90 %応答は2 分以内となっている。DO がゼロの場合に電極に流れる電流を残余電流と呼ぶが、この残余電流は、ポーラログラフ式電極の方がやや大きい。また、隔膜での拡散を利用しているため、試料水の隔膜付近では、酸素の透過によってDO が局部的に減少する。これを防ぐため、隔膜面に、通常20 cm/sec 以上の試料水の流速を与えることが必要である。また、DO の測定値は、隔膜の酸素透過率に比例するので、隔膜が汚染されたり、気泡が隔膜面に付着したりすると感度が変化するので、隔膜の汚染防止、気泡付着防止対策が行われている。
3.3 温度による影響
隔膜電極法は、隔膜の酸素透過性に基づくが、隔膜の透過率Pm は、温度に対して指数関数的に変化する。また、飽和溶存酸素量も試料水温度に対して指数関数的に変化する。これらの温度特性に対して、サーミスタなどを利用して温度補償を行っている。
3.4 高塩類濃度の影響
同一温度、同一大気圧において、塩類濃度が大きくなると、飽和溶存酸素量は減少するが、水中の酸素分圧は、大気と平衡にあるためにさほどの影響を受けない。このため、高塩類濃度液中のDO は、その塩類濃度での飽和溶存酸素値に比較設定する必要があり、その対策として、電気的な塩分補償を実施している。
3.5 DO 計校正方法
DO 計の使用に際しては、ゼロ及びスパンの出力校正が必要である。通常、ゼロ校正液には、5 %以上の亜硫酸ナトリウム水溶液、スパン校正液には、蒸留水又はイオン交換水に空気を約1L/ 分の流量で通気して溶存酸素を飽和させたものを使用する。また、水中の飽和溶存酸素の分圧と大気中酸素の分圧がほぼ等しいため、簡易的に大気中の酸素分圧を利用した校正方法もある。
4. 設置方法
DO 計にはその使用目的によって、定置型、携帯型、卓上型がある。以下それぞれについて述べる。
4.1 定置型
定置型は、河川水, 工場排水等の水質監視用, 又は, 下水処理施設のばっ気槽におけるDO 管理用などに使用される。定置型DO 計は, 基本的には検出器と変換器から構成されており, さらに記録計への伝送出力, 警報回路や自動制御用接点が付加されている(図4)。
変換器は, 検出器と直結したものと分離して設置できるものがある。これらは, 屋外での使用を基本とするため, 防水性で漏電対策としての絶縁が施されており, 安全性について十分な配慮がなされている。また、公共用水域、下水排水処理施設等で連続的にDO を測定する目的で使用される自動計測器については、JIS K 0803「溶存酸素自動計測器」に、繰返し性、ドリフト、応答時間、温度補償精度などの性能が規定されている。
連続測定では、測定を長期間続けると、検出器の隔膜面に汚れが付着し、酸素の透過が妨げられて検出感度が劣化する。そのため、定置型DO 計は、自動洗浄機構を有する機種が多い。洗浄方法としては、電極先端に空気又は水を噴射し汚れを落とす方法、上昇気泡により検出器に乱流を作用させて汚れの付着を防止する方法(図5)や、検出器の形状や取り付け方法により、検出器先端を揺らし電極面に乱流速を作用させて洗浄する方法(図6)などがある。
4.2 携帯型、卓上型
携帯型は、持ち運びが便利なように小型・軽量で電池を電源として操作できる。DO の濃度は、検水の試料水の採取、移動、保存等において変化する可能性が多いので、測定は可能な限り現場で行なうことが望ましい。よって、携帯型の利用度は大きい。卓上型は、主として研究室、実験室等で使用される。
指示計の指示目盛りには、濃度表示(mg/L)と飽和度表示(%)があるが、濃度表示の計器が大半を占めている。測定範囲は、一般には0 ~ 20 mg/L である。低レンジで測定できるタイプもあり、脱気水(ボイラ水)などの測定も可能である。
携帯型DO 計の検出部は、浸漬形のものが多く、ケーブルの長さは、移動性の点から2 m 程度が多い。また、深層用として、ケーブル長が最大100 m のものもある。
隔膜型DO 電極は、隔膜の拡散を利用するため、電極に流速を与えていないと、電極近傍の酸素が欠乏し、指示値が減少する。そのため、流速の少ないところでは、電極を上下させる測定や攪拌器を使用する必要がある。最近は、改良された隔膜や電極を使用することにより、無流速でも計測可能な機種や、先端に攪拌装置を設置した機種もある。