5-1-4 炭化水素計測器

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1.はしがき

 大気中炭化水素は、光化学オキシダントの要因物質であり、中央環境審議会から、「光化学オキシダントの日最高1時間値0.06 ppm に対応する午前6 時から9 時までの非メタン炭化水素の3 時間平均値は、0.20 ppmC から0.31 ppmC の範囲」が指針値として示された(光化学オキシダントの生成防止のための大気中炭化水素濃度の指針について(答申)昭和51(1976 年)8.13 中公審)。
 測定方式は、ガスクロマトグラフと水素炎イオン化検出器(Flame Ionization Detector:FID)を使用した直接方式を原則としている。
 大気中の炭化水素計測器に関しては、昭和50 年(1975年)11 月にJIS B 7956「大気中の炭化水素自動計測器」が制定された。また、同JIS は、平成7 年(1995 年)7 月に改正され、FID に基づく計測器が規定されている。最近は、メタンについても地球規模の温暖化に関与する、いわゆる温室効果物質として関心が持たれている。
 以下に、測定方式及び特徴について述べる。

2.測定方式

 炭化水素の計測器として、検出原理から、水素炎イオン化検出法(FID)によるもの、赤外線吸収(NDIR、オープンパス方式)によるもの、接触燃焼法によるもの、化学発光によるもの、半導体センサによるものがある。化学発光法は、開発途上にあり、NDIR法、接触燃焼法は、測定対象が比較的高濃度の場合に、オープンパス法は、測定対象が比較的低濃度の場合に適用される。自動車排出ガスなどに適用されるものは、4.自動車排出ガス計測器に紹介されている。半導体によるものは、定量用としては不十分で、ガス漏洩検知器として用いられており、1.12.1 に記載されている。
 上述のように、公定法は、水素炎イオン化検出器(FID)であるが、温室効果ガスとしてメタンへの関心があることから、オープンパス法によるメタン計測についても述べる。

2.1 水素炎イオン化検出法(FID 法)

 FID は、ガスクロマトグラフにおける有機物の高感度検出器として重用されているものである。FID では、図1 に示すように、ノズルに一定流量に制御された試料大気と燃料の水素を送り点火し、フレームをはさむコレクタ電極間に発生する炭素イオンによるイオン電流を測定する。
 炭化水素計測器は、目的からトータルの炭化水素の値を求めるものと、組成に分けて測定するものとに分けられる。トータル測定を行うものは、全炭化水素計(THC計)、組成をグループ別に測定するものは、非メタン炭化水素計(NMHC 計)やメタン計(メタン検知器)である。

FID検出器の構造例

2.1.1 全炭化水素計(Total Hydrocarbon Meter、THC 計)

 図2 に、全炭化水素計の流路構成例を示す。無機ガスは、水素炎中ではイオン化しないが、いくつかの例外(ホルムアルデビド、ギ酸)を除く有機化合物は応答を与える。したがって、厳密にいえば、THC 計は全有機質計ということができるが、一般には環境大気中の有機物は殆どが炭化水素であるので、全炭化水素を測定しているとみても差し支えない。FID は、導入される空気中の有機炭素原子の絶対数に関係のある応答を与えるので、濃度表示は、メタン換算ppm 濃度によるのが普通である。これをppmC と表す。

全炭化水素計の流路構成例

 THC 計は、FID が上述のように絶対量計であるので、ノズルに流入する試料の流量の安定度は、計測器の性能評価上重要である。同様に、燃焼状態に影響を与える水素の流量も安定であることが必要であると同時に、水素中の炭化水素含有率が低いことも誤差を小さくするために重要である。しかし、水素の純度の判定をFID で行うことは容易でないし、水素充填高圧容器(ボンベ)の安全上、法規上の規制などの点から、水素源は、水の電解発生装置によることが通常である。
 THC 計の問題点は、炭化水素応答の酸素干渉である。ガスクロマトグラフ用のFID のように、窒素キャリヤーで空気と分離した成分を運び、助燃用酸素(空気)をフレームの外部から供給する場合は、炭化水素の応答は正しく炭素数に比例するが、THC 計のように、試料空気によってフレーム内部からも酸素が供給される場合、イオン化より先に炭化水素分子の燃焼がおこる部分が生じ、この部分は、イオン化に関係しなくなるので応答は低下する。また、この燃焼の度合は、有機物の種類と燃焼条件により異なるので、THC 値は、炭化水素の組成ならびに計測器によって変化することになるため、THC 計は組成変動の大きい計測対象に対しては定量性に問題がある。

2.1.2 非メタン炭化水素計(Non-Methane HydrocarbonMeter、NMHC 計)

 図3 に、非メタン炭化水素計の流路構成例を示す。NMHC 計では、メタンを非メタン炭化水素から分離する分離部を持つ。大気中の炭化水素濃度は、ふつう2 ~3 ppmC であり、その70 ~ 90 %は空気の常在成分であるメタンで占められる。また、公害対策としての炭化水素測定は、光化学スモッグの原因物質の一つである炭化水素の抑制にあるが、メタンは光化学的には不活性であるから、大気汚染としての炭化水素としては、メタンを除外して考えなければならない。ここに、非メタン炭化水素の測定の意義があり、わが国の環境規制としては、環境濃度指針の対象にNMHC を選ぶとともに、FID を検出器とする直接法ガスクロマトグラフによるものを指定している。なお、ここで直接法としたのは、NMHC 計は直接法と差量法の2 種類に分けられるからである。

非メタン炭化水素計の流路構成例

(1) 直接法NMHC 計
 計量管で一定量採取した試料大気を、まずプレカラムに送り、成分の分離を行うと、分子量の小さいものから分離がはじまる。最初の空気・メタン分が、C2 炭化水素以下と分離し、次のメインカラムへ移った時に、キャリヤーガス流路を切り換え、メインカラムはそのまま流し、プレカラムはガス流路を逆向きとし、バックフラッシュ(逆洗浄)する。メインカラムでは、分離はそのまま進行し、メタンは空気と分離してFID に入る。キャリヤーガスに窒素を用いるので、メタンと空気が完全に分離されていれば、応答は酸素干渉を受けない。プレカラムに残存して分離中であったNMHC 分は、ガス流が逆向きになったので集合して一つのピークとなり、もとの入口から出てFID に入る。こうして、メタン、NMHC いずれも同じFID によって、酸素干渉のない状態で検出される。このように、NMHC を直接検出するので直接法と呼ばれる。 現在市販されている直接法NMHC 計の流路及びその動作概念を、図4 に示す。

直接法NMHC計の流路及びその動作概念

 この計測器は、ガスクロマトグラフを用いているので必然的に連続測定は不可能であり、分離・検出に必要な最短時間(メタンと空気の分離及びNMHC ピークのテーリングによってきまる)を一周期とする間欠測定となる。現在の装置は、6 ~ 10 分である。この場合の間欠測定は、スポットのサンプリングの連続であり、溶液導電率法のような連続サンプリングにおけるスポット計測(間欠測定であるが、その周期内の積分的測定)とは内容が異なる。
 計測器は、サンプリング、ゼロ調整、バルブ切り換えを自動的にプログラムによって行い、測定結果は図4 に示したピークのうち、メタンとNMHC をそれぞれ積分した値を記録する。必要に応じて両者の合量、THC や、1時間平均値を演算記録する。スパン校正は、空気バランスのメタン標準ガスで行い、カラムの劣化、分離状況の点検のため、日常点検においては、点検時クロマトグラムをかかせる。

(2) 差量法NMHC 計
 1 台の計測器の内部に、THC 計とガスクロマトグラフ法メタン計を内蔵し、両者の測定結果の差を求めてNMHC とする。メタン計は、前記の直接方式のものと類似のものであるが、NMHC 部分、すなわちバックフラッシュ部分は、そのまま放出して測定しない。このため、測定時間を短縮でき、1 周期5 分、あるいは、それ以下も可能である。ただし、内容にTHC 計を用いているので、その測定値に酸素干渉が入り実際の値より小さくなってしまうため、標準測定法とされていない。

2.1.3 その他の炭化水素計

(1) 選択燃焼式NMHC 計
 一つのFID に電磁弁で切り換えられる2 つの流路をつなぎ、一つの流路は大気をそのまま、他方の流路には酸化触媒を設け、燃えにくいメタンを残して他の炭化水素を燃焼させた大気を、それぞれFID に送り、ガスクロマトグラフ的構成をとらずに、差量的にNMHC を測定しようとする方法である。測定周期は4 分。

(2) 活性炭化水素計
 THC 計を2 台セットし、1 台はそのまま、もう1 台には、試料流路に不飽和炭化水素や芳香族炭化水素を吸収するスクラバを挿入し、両者の計測値の差により、これら吸収された化学的活性のある炭化水素濃度を知ろうとするものである。

2.2 オープンパス法

 温室効果ガスのひとつであるメタンは、大気中に1 ~2ppm 程度と、かなり小さな濃度で存在している。メタン濃度の測定法として、高感度、高速測定が可能なオープンパス方式の半導体レーザ吸収分光による測定法が開発されている。図5 に、オープンパス法によるメタン検知器の原理図を示す。

オープンパス法可燃性ガス検知器の原理

 メタンは、特定波長の近赤外光を吸収する性質がある。半導体レーザからメタンに吸収される近赤外測定光を発光器で発光し、測定対象の大気中を決められた距離だけ測定光を出射、検出器で、その測定光を受光し、その受光信号から測定対象距離中に含まれるメタン濃度を計測する。レーザ光を使用しているので、特定ガスのみに反応し、遠隔測定ができ、また検出時間も10 秒以下と短時間で測定できる。

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