5-1-2 硫黄酸化物計測器

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1.2.1 環境用

1.はしがき

 大気中の二酸化硫黄の環境基準は、1 時間値の1 日平均値が0.04 ppm 以下であり、かつ、1 時間値が、0.1 ppm以下とされており、これを達成するために、全国の自治体の多数の測定局で常時監視が行われている。
 環境大気中の二酸化硫黄の連続測定の測定方式としては、溶液導電率法、炎光光度法、電量法、紫外線蛍光法等に基づく方法があるが、環境基準及び緊急時の措置に係る測定法としては、「大気の汚染に係る環境基準について」(昭和48 年(1973 年)環境庁告示第25 号)及び大気汚染防止法施行規則18 条において、紫外線蛍光法又は溶液導電率法を用いることになっている。また、平成16 年(2004年)に、JIS B 7952「 大気中の二酸化硫黄自動計測器」が改正され、測定方式としては、紫外線蛍光法及び溶液導電率法が規定されている。

 以下に、紫外線蛍光法、溶液導電率法の原理及び特徴を述べる。また、参考に炎光光度検出法、電量法についても述べる。

2.測定方式

2.1 紫外線蛍光法

 比較的短波長域の紫外線を吸収して生じる励起状態のSO2*から、発生する蛍光の強度を、光学的フィルタによって選択的に光電子増倍管により測定し、大気中の二酸化硫黄濃度を連続的に求めるものである。二酸化硫黄以外に蛍光を発するガス、たとえば芳香族炭化水素など は、スクラバで除く必要がある。また、水蒸気圧の変動も測定値に影響を与える。

 この方式は、試料大気流量の影響を受けず、広い濃度範囲にわたって直線性をもっている。紫外線蛍光法による大気中二酸化硫黄自動計測器の構成図の一例を、図 1 に示す。

紫外線蛍光法による大気中二酸化硫黄計測器の構成例

2.2 溶液導電率法

 試料大気を硫酸酸性とした過酸化水素水溶液の吸収液 に通ずると、大気中に含まれるSO2 は、吸収されて、以下の反応によって硫酸となり電気伝導率(導電率)を増加させるので、これを測定することにより、大気中の二酸化硫黄濃度を求めている。

H2O2 + SO2 → H2SO4

 この方式による計測器は、ほとんどが1 時間を周期とする間欠形のものである。吸収液は、0.006 %の過酸化水素を含む5 × 10-6 mol/L の硫酸溶液であり、この吸収液20 mL に試料大気を1 L/min で通ずることが測定条件となっている。測定レンジは、0 ~ 0.05 ppm から0 ~1 ppm まで、広い範囲を自動レンジ切換方式によって測定が行えるようになっている。また、吸収液の電気伝導率(導電率)の温度変化は、温度補償抵抗(サーミスタ)によって自動温度補償されている。

 計測器の指示記録は、毎測定周期の始めを0 とし、1時間後の周期の終りを頂点とする 鋸歯状で、1 時間の平均値を表わしている。また、毎周期の始めのゼロ点は、毎回自動ゼロ点調整が行われ、ゼロ点の安定化と二酸化炭素(CO2)影響の防止がなされている。吸収液の電気伝導率(導電率)は、約4 μS/cm(約20 ℃)であり、このため吸収液の蒸発による偏りも2 ~ 3 ppb と低下している。

 干渉成分としての大気中のCO2 は、自動ゼロ点調整で予備通気によって影響を防いでおり、それ以外に、NO2、HCl、Cl2、H2S、HF、NaCl、NH3 など吸収液に溶解して、その電気伝導率(導電率)を変化させるものは干渉成分となりうるが、NH3 以外は、その存在が極めてわずかであるか、あるいは特別の場合であって特に問題となっていない。また、NH3 の干渉については、粒状しゅう酸トラップ、イオン交換体などの使用によって除去することが可能である。

 間欠形溶液導電率法による大気中二酸化硫黄自動計測器の測定系統図の一例を、図2 に示す。

間欠形溶液導電率法による大気中二酸化硫黄自動計測器の測定系統図の例

2.3 炎光光度検出法

 水素炎の中に硫黄化合物を含む試料大気が導入されると、その硫黄化合物が、水素炎中で熱分解する際に励起状態のS2* を生じ、これが、基底状態にもどる時300 ~423 nm に発光現象を起こす。この発光のうち394 nm の発光を、狭帯域光学フィルタを用いて選択的に光電子増倍管によって測定し、試料大気中に含まれる硫黄化合物を二酸化硫黄濃度として求める。
 この方式は、二酸化硫黄以外の、たとえば硫化水素、メルカプタン類の硫黄化合物にも応答するので、これらを適当なスクラバで除く必要がある。

 炎光光度検出法による大気中二酸化硫黄自動計測器の構成図の一例を、図3 に示す。

炎光光度検出法による大気中二酸化硫黄自動計測器の構成図の例

2.4 電量法

 臭化カリウム(よう化カリウムを使用することもある)を電解液として電気分解により、電解液中に臭素を遊離させ、臭素と試料大気中二酸化硫黄との以下の反応によって低下する臭素濃度の変化を電位で検出し、電気分解により臭素を補給するときの電解電流により試料大気中の二酸化硫黄濃度を測定するものである。

SO2 + Br2 + 2H2O → H2SO4 + 2H + + 2Br-

 この方式は、SO2 以外の硫化水素、メルカプタン類の硫黄化合物にも応答し、また、オゾンの影響も受けるので、適当なスクラバでこれを除く必要がある。

 電量法による大気中二酸化硫黄自動計測器の構成図の一例を、図4 に示す。

電量法による大気中二酸化硫黄自動計測器の構成図の例

1.1.2 固定発生源用

1. はしがき

 硫黄酸化物の測定は、工場及び事業場における事業活動に伴って発生する硫黄酸化物の排出量を許容限度に抑え、人間の健康保護と生活環境の保全を目的とするもので、大気汚染防止法の規制に基づき該当する各事業場において、二酸化硫黄濃度を測定するものである。
 主な使用場所は、火力発電用ボイラ、石油精製プラント、硫酸プラント、鉄鋼プラント、ゴミ焼却炉等の二酸化硫黄発生源である。

 固定発生源用二酸化硫黄濃度測定器は、JIS B 7981「排ガス中の二酸化硫黄自動計測システム及び自動計測器」(平成14 年(2002 年)改正)で規格化された。各計測器は、JIS に基づく測定原理及び測定範囲を有しており、さらに、計量法で定められた検定品扱い可能なものもある。

 測定方式の種類及び測定範囲を、表1 に、固定発生源用二酸化硫黄計測器の流路系統図例を、図5 に示す。通常、発生源煙道内から測定対象ガスを連続に採取し、前処理をして計測器に試料ガスを供給するいわゆる試料採取部も測定技術上、大事な要素であるので、この点も併せて考慮の必要がある。

 以下に、各測定方式の原理及び特徴を述べる。

測定方法の種類およびレンジ

固定発生源用二酸化硫黄計測器の流路系統図の例

2. 測定方式

2.1 非分散形赤外線吸収法(NDIR 法)

 この方式は、二酸化硫黄の赤外領域における光吸収を利用して、二酸化硫黄濃度を求める方式である。具体的には、二酸化硫黄の7.3 μ m 付近における赤外線の吸収量を測定し、試料ガス中に含まれる二酸化硫黄濃度を連続的に測定する。保守作業が容易で、選択性検出器・光学フィルタ・補償用検出器などの採用で水分干渉、CO2/CO ガスの影響がほとんどない。一つの光学系で、NOxやCO といった複数の成分を測定することができるという特徴があるため、多成分計として利用されていることも多い。原理の解説は、1.7 の多成分計測器に記述があるので参照されたい。また、JIS K 0151「赤外線ガス分析計」にも別途赤外線ガス分析計の規定があり、現在最も普及している方式の一つである。図6 に、非分散形赤外線吸収法による大気中二酸化硫黄計測器の構成例を示す。

非分散形赤外線吸収法による大気中二酸化硫黄計測器の構成例

2.2 紫外線吸収法

 この方式は、二酸化硫黄の紫外領域における光吸収を利用して二酸化硫黄濃度を求める方式で、二酸化硫黄の280 ~ 320 nm 付近における紫外線の吸収量を測定するものである。
 この方式の特徴としては、試料ガス流量の影響を受けないこと、水分、二酸化炭素の吸収がないため、この影響を受けないこと、保守が容易なことが挙げられる。赤外線吸収法と同様に、多成分計として利用されていることも多い。

 図7 に、紫外線吸収法による大気中二酸化硫黄計測器 の構成例を示す。

紫外線吸収法による大気中二酸化硫黄計測器の構成例

2.3 溶液導電率法

 この方式は、過酸化水素を含む硫酸溶液に試料ガス中の二酸化硫黄を吸収させて、以下の反応式のように二酸化硫黄を硫酸にした後、硫酸の電気伝導率(導電率)の増加から二酸化硫黄濃度を求める方式である。

H2O2+SO2 → H2SO4

 吸収液を送液ポンプで間欠的に吸収管部に送り、吸収液を滴状にして吸収管内部に自重落下させ、反応管下部に到達する過程で試料ガスを一定量吸収し、SO2 を吸収液内に吸収反応させた後、反応後の液を測定セルに導入して、その電気伝導率(導電率)を測定し、SO2 濃度表示をする測定方式である。
 この方式の特徴としては、試料ガス流量の影響を受けないこと、また測定範囲が広く、測定範囲変更が容易なことである。

 図8 に、溶液導電率法による大気中二酸化硫黄計測器の構成例を示す。

溶液導電率法による大気中二酸化硫黄計測器の構成例

2.4 紫外線蛍光法

 この方式は、試料ガス中の二酸化硫黄を紫外線によって励起し、励起された二酸化硫黄から発せられる蛍光を利用して、二酸化硫黄濃度を求めるものである。この方式の特徴は、試料ガス流量の影響を受けないこと、水分・二酸化炭素の影響を受けないことである。

 紫外線蛍光法による大気中二酸化硫黄計測器の構成例は、図1 を参照されたい。

2.5 干渉分光法

 この方式は、光源からの光をインターフェログラムとして試料部へ送り、試料中の二酸化硫黄による赤外領域における光吸収とフーリエ変換を利用して得られた吸収スペクトルから、二酸化硫黄濃度を求める方式である。多成分同時計測が可能である。

 図9 に、干渉分光法による大気中二酸化硫黄計測器の構成例を示す。

干渉分光法による大気中二酸化硫黄計測器の構成例

2.6 定電位電解法

 この方式は、二酸化硫黄を電解質に吸収させた後、電気化学的反応を利用して二酸化硫黄濃度を求めるもので、電解質中に吸収された二酸化硫黄は作用電極に所定の電位を与えると次式のように酸化される。

化学式(二酸化硫黄の酸化)

 共存する二酸化窒素、塩化水素、硫化水素、炭化水素、塩素の影響を無視できる場合、又は影響を除去できる場合に適用し、レンジは0 ~ 25 ppm から0 ~ 3000 ppm の間で適切なものを選ぶ。
 この時発生する電解電流は温度が一定の条件下では、次式のように二酸化硫黄の濃度に比例する。

数式(電解電流の関係式)

ここに、

数式中の文字定義

 小型・軽量なので移動測定に適しており、水分は干渉影響を持たないという特徴がある。硫化水素は正の干渉影響を与える。定電位電解法による計測器の構成例は、1.1一酸化炭素計測器の図9を参照されたい。

2.7 炎光光度検出法

 この方式は、測定ガス中の二酸化硫黄が水素過剰の還元性水素炎により、次式のような還元反応に伴う励起によりS2* の分子発光を生ずることを利用し、394 nm の発光強度を光電子増倍管で測定し二酸化硫黄の濃度を求めるものである。共存する硫化水素や二硫化炭素、炭化水素、二酸化炭素の影響を無視できる場合、又は影響を除去できる場合に適用し、レンジは0 ~ 25 ppm から0 ~3000 ppm の間で適切なものを選ぶ。炎光光度検出法による計測器の構成例は、図3 を参照されたい。

化学式(還元性水素炎による二酸化硫黄の還元と発光)

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