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3-6-2 波形モニタ
- 1. ベクトルスコープ
- 2. 波形モニタ
- 3. ひずみ率測定器
- 4. カラーバーパターン発生器
1 波形モニタとは
波形モニタを一言で言えば映像信号(テレビカメラの出力信号)の観測に特化したオシロスコープで、コンポジット、コンポーネント、HDTV等世界中の各種映像信号の方式に合わせた多くの機種が発売されている。
オシロスコープは、従来表示器として CRTが用いられていたが、最近発売されるオシロスコープは液晶を表示器に用いたものが主流になっている。
波形モニタも、映像信号のデジタル化による高精度化が進み、アナログ素子である CRTは高精度測定の実現に不利であることや、アナログ時代には無かった高機能を波形モニタに要求されるといった背景があり、近年では波形モニタの表示器に液晶を用いたものが多い。
いずれにしろ構成の基本はオシロスコープと同じなので、構成や測定原理等はオシロスコープの項に譲り、ここでは波形モニタの性質を中心に解説する。
2 アナログ波形モニタ
映像信号がアナログしかなかった時代には、文字通り映像信号の波形が適正かどうかをモニタ(観測)することが目的のすべてであった。そのため、アナログ用の波形モニタは映像信号の観測に適した特性や機能、目盛を備えている。
a) 振幅の測定
映像信号も電気信号なので、規格に則った運用がなされる必要があり、たとえば白 100 %(最大の明るさ)では NTSCでは 714 mV、HDTVでは 700 mV、同期信号も含め振幅は 1V と規定されており、機器の調整等では振幅の確認は不可欠となる。
そのため波形モニタの感度は、1V の信号が観測しやすい感度に合わせてある。また、目盛もペデスタルレベルを 0 とし、映像信号側(+目盛)、同期信号側(-目盛)にそれぞれ目盛を付けている。目盛は電圧表示もあるが、通常は白 100 %を 100 とする相対目盛が設けてありそちらが用いられる。
テレビ撮影の運用で波形モニタは照明の具合や、カメラの調整でも振幅測定機能が利用されている。また、波形全体ではなく黒の部分を拡大して観測することも行われるので、波形モニタは波形の振幅を 5 倍、10 倍と拡大して観測する機能(V-MAG などと呼ばれる)を備える。
b) 波形ひずみの観測
映像信号が伝送されるとき、伝送系の影響でさまざまな波形ひずみを生じる。アナログ波形モニタの重要な役割のひとつが波形ひずみの観測である。
波形ひずみの原因には周波数特性、位相特性、直線性が挙げられるが、それぞれの原因が複合的に存在するのが普通である。
通常の観測では各々の特性を観測するためのテスト信号を伝送系に入力して、出力信号の波形がどれくらいひずむかを波形モニタで目視したり、カーソルにより数値化して観測する。アナログ波形モニタには、波形ひずみが容易に観測できるように専用目盛を設けた機種もあり、ランタイムひずみや K ファクタ( 2T パルス特性)観測のための目盛が代表的である。
コンポジット映像信号特有の測定として、微分利得 DG がある(微分位相 DP もあるが、その測定はベクトルスコープの測定対象となる。)。
DG の測定は、テスト信号として変調ステップ信号を用いる。コンポジット信号用波形モニタのフィルタにより輝度成分を削除して表示させ、サブキャリア成分の振幅がそろっているかを確認する。
c) 同期信号の観測
映像信号では同期信号も重要な役割があり、規格上も、振幅、パルス幅、立ち上がり/立ち下がりの傾斜等その特性が細かく規定されている。同期信号は映像信号の 1/6 程度の時間しかなく、そのままでは細かく観測しにくい。そこで波形モニタでは、水平走査時間を速くして波形を時間軸方向に拡大する機能を備える。拡大後は目視やカーソルにより振幅、時間(幅)傾斜等を観測する。
d) アナログ波形モニタの現状
先進国におけるテレビ撮影は急速にデジタル化されており、アナログビデオ信号は民生市場や一部の工業用に絞られてきている。そのため、ここ数年アナログ専用の波形モニタの新製品は発売されていない。そのため、現行製品は表示器に CRTを用いた古いタイプが多い。現在では、アナログ波形観測機能は、次項で説明するデジタルビデオ信号を観測するデジタル波形モニタの付随した機能として発売される。しかし、デジタル波形モニタは、デジタル機能を中心にした波形モニタのため、アナログ波形のひずみを観測するための目盛や機能が省略される場合が多い。
3 デジタル波形モニタ
現在、先進国のテレビ局で扱われる映像信号はデジタル化され、その伝送は SDI (SERIAL DIGITAL INTERFACE)により伝送されている。そのため波形モニタもデジタル信号を受け、そのままデジタル処理を施して表示する仕組みに変わっている。
表示器は、一部 CRTに表示するタイプも存在するが、現在の主流は液晶に表示するタイプである。液晶に表示するタイプは、信号入力から表示までをすべてデジタル処理できるので、精度劣化を最小限にすることが可能である。また、映像信号のデジタル化に伴い音声の重畳や垂直ブランキング期間の活用がより活発になり、映像以外の多くの情報(補助データ)の表示が求められるようなった。
a) アナログ波形モニタとの違い
デジタル映像信号は、その性質上伝送により波形ひずみは発生しない。そのためアナログ波形モニタが有していた多くの波形ひずみ観測のための目盛や機能が削除されている。その代わり伝送キャリアとなる SDI信号の状態を観測する必要が生じた。またデジタル信号特有の伝送エラーが発生するリスクも存在する。デジタル波形モニタは、波形表示とともにこの SDI信号特有の情報を表示する機能が求められている。また、多様な補助データの表示が求められていることもアナログ波形モニタとの違いである。
b) 振幅の測定
デジタル映像信号になってもカメラ自身が光というアナログを扱う以上振幅測定は基本的に同じである。しかしデジタル映像信号の場合アナログ波形としての同期信号が存在しないため(コンポジットデジタル信号はアナログ的な同期信号波形が存在するが、現在ほとんど使用されていない)、デジタル波形モニタでは 0.7 V相当の振幅が見やすいような目盛配置になっている。
c) ブランキング期間の表示/非表示
デジタル映像信号では水平ブランキング期間に同期パルスが存在する。また音声信号が重畳される場合もある。これらの信号の表示/非表示を切り替える機能である。これはこれらの信号が最大振幅のヘッダを持つ関係で、映像信号の観測時に邪魔になることがあるため、表示/非表示が切りかえられるようになっている。
d) 音声に関する測定
水平ブランキング期間に重畳された音声信号を分離しレベルや位相を表示できる機能が最近は普通になっており、また音声データに関する伝送エラーやチャネル情報もあわせて表示できることが多い。さらに一部の機種では音声を AES/EBU形式(Audio Engineering Society / European Broadcasting Union)で出力したり、ヘッドホンで音声の内容を確認できる機能を持ったものもある。
e) SDI信号を測定・監視する機能
SDI信号は、30 BIT(Y、Cb、Cr各 10 BIT)のコンポーネント映像信号をビットシリアルに変換して伝送する方式で、SDTVで 270 Mbps、HDTVでは 1.5 Gbpsという高速な伝送レートを持つデジタル信号である。そのためケーブルの長さや接続不良などちょっとしたことで伝送エラーが発生する場合がある。そこで SDI信号を測定するデジタル波形モニタには SDI信号の状態を監視する機能を備える。
監視機能は大きく二つに分かれる。ひとつは伝送情報を監視して正しい情報が伝送されているかを観測する方法で、情報に含まれる CRC(Cyclic Redundancy Check)を利用するのが最も一般的である。もう一方の方法はデジタル信号の電気的な波形の状態を観測するもので EYEパターン測定と言われるものである。EYEパターン測定では伝送信号の振幅、立ち上がり/立ち下がりの傾斜、ジッタ等が測定パラメータとなる。
f) 情報伝送に関する表示
現在放送局で使用されるデジタル映像信号には、垂直ブランキング期間に多くの情報が付加され、それらは総じて V-ANC(V-ANCILLARY)データと呼ばれている。V-ANCデータには字幕、局間制御信号 Net-Qが代表的なものである。これらのデータの確認には従来専用の機器が用いられていたが、最近では波形モニタに字幕のデコード・表示機能を搭載したり、Net-Qの状態をリアルタイムに表示する機能が追加されている。
資料提供
- 波形モニターLV 5152 CRT目盛 リーダー電子株式会社
- マルチモニターLV 5800 波形モニタの表示目盛 リーダー電子株式会社
参考文献
- ビデオ信号の基礎とその操作法 今村元一著 CQ出版社