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3-1-2 電力測定器
1 電力測定器
電力測定器は、電気機器や電力設備の消費電力を測定する装置である。電力の測定は、電気設備、電気機器の保守・管理や、省エネルギーを推進する上で重要な測定項目の一つとなっている。電力測定器は、一般的にベンチトップ形とポータブル形に大別される(図 1 参照)。
ベンチトップ形は、1 チャネル入力の単相測定用から、2 または 3 チャネル入力の三相測定用、さらには 1 台で同時に複数系統の測定ができるタイプまで多数の機種が用意されており、機器用電力計とも呼ばれている。電流入力方式には、直接入力方式とクランプ電流センサによる入力方式とがある。
一方、ポータブル形は、小形化、軽量化により可搬に適している。また、現場において活線状態での測定が可能なクランプ電流センサによる電流入力方式となっており、クランプ式電力計や系統用電力計とも呼ばれている。
電気機器の省エネルギー化のためのインバータの普及に伴い、インバータのPWM制御波形を正確に計測するために、電力測定器も広帯域化されている。また、PWM制御された機器の電力測定では、基本波に対する電力測定が重要であり、高調波解析機能を備えた電力測定器もある。
1.1 用語説明
1.1.1 電力
電力は負荷で消費されるエネルギーで、電熱器の熱、モータの回転力、蛍光灯の光などの各エネルギーに変換される。このように、ある電圧のもとで電流が流れて、電気的な仕事がなされている場合、単位時間あたりの仕事量を電力といい、電圧と電流の積で表される。電圧を u [V]、電流を i [A]とすると、瞬時電力 p[W]は、
p=ui [W]
となる。
1.1.2 直流電力
図2のような直流回路の場合、負荷を R[Ω]、加えられた電圧を U[V]、負荷を流れる電流を I [A]とすると、電力 P[W]は以下のように U と I との積で求められる。
P=UI [W]
1.1.3 交流電力
白熱電球などのように負荷が抵抗のみの場合は、電圧 u [V]と電流 i [A]の位相差はゼロで、このときの瞬時電力 p [W]は、電圧、電流の 2 倍の周波数をもった図 3 のような波形となる。この瞬時電力 p [W]を平均した値が、有効電力 P [W]となる。
同じ電圧、電流値でも、電圧と電流の位相差によって電力が異なる。モータなどのように負荷が誘導性の場合や、負荷が容量性の場合は、電圧と電流の間に位相差が生じ、瞬時電力 p [W]は図 4 のようになる。電圧と電流の位相差が大きくなるほど負の電力が増加し、θ=π/2 では正負の電力が等しくなり電力を消費しなくなる。
交流の場合、電圧 u[V]、電流 i [A]はその大きさと方向が周期的に変化するので、u と i の積を交流の瞬時電力 p[W]とすると、p も時間とともに変化する。
ここで、正弦波交流の電圧波形を u、電流波形を i とすると、
ただし、ω:角周波数、t:時間、θ:電圧と電流の位相差と表され、瞬時電力 p は以下のように表される。
この式より、瞬時電力 p は、時間に無関係の UI cosθと、電圧や電流の2倍の周波数の交流分 UI cos(2ωt-θ)の和になっていることがわかる。負荷で消費される単位時間あたりの電力 P(有効電力)は、p の平均値であるため、p の交流分はゼロとなり、有効電力 P [W]は
U:電圧実効値、I:電流実効値、θ:電圧と電流の位相差
となる。
1.1.4 皮相電力
電圧の実効値 U と、電流の実効値 I の積 UI を皮相電力 S と呼ぶ。単位は、[VA]が用いられており、電気機器の容量を表すのによく用いられる。
1.1.5 有効電力
皮相電力のうち、負荷で消費される電力を前述のように有効電力 P と呼び、単位は[W]が用いられる。
1.1.6 無効電力
皮相電力のうち、負荷での消費に寄与しない電力を無効電力 Q と呼び、単位は[var]が用いられ、その大きさは、
となる。
1.1.7 力率
皮相電力、有効電力、無効電力の関係は以下の式で表され、図 5 のようになる。
S2=P2+Q2
ここで、有効電力の式における cosθ は皮相電力に対して実際に負荷で消費された電力の割合を示すもので、力率λ と呼ばれている。抵抗負荷では電圧と電流の位相差が 0°のため cosθ=1 であり、コイルやコンデンサの負荷では電圧と電流の位相差が 90°となるため cosθ=0 となる。
1.1.8 三相交流電力
三相電力を測定する場合には、3 台の単相電力計を各相に接続してそれぞれの指示値の和をとれば測定できる。一般に、「多相 n 線式回路の電力は、負荷の平衡・不平衡にかかわらず、n-1 台の単相電力計を用いて測定でき、各電力計の指示値の和で与えられる」というブロンデルの定理により、三相 3 線式の電路では、単相電力計 2 台により測定することができる。この測定方法は、2 電力計法と呼ばれており、実際にはこの 2 電力計法に基づいて設計された三相電力計が使用される。
ここで、図 7、8 より2電力計法による電力 P は、
となり、2 電力計法により三相電力が測定できることがわかる。
1.2 電力測定器の測定原理
一般に、電力測定器では、入力された電圧波形、電流波形を乗算することで瞬時電力波形をつくり、ローパスフィルタ(LPF)で平滑して有効電力を求めている。これらの演算処理には、アナログ演算処理による方法や、ディジタル演算処理による方法がある。
1.2.1 アナログ演算処理
電圧入力部、電流入力部からの信号は、アナログ乗算 IC に入力され、瞬時電力波形に演算される。その瞬時電力波形を LPF で平滑することで有効電力に比例した DC 電圧に変換される。その DC 電圧を取り込み表示している。性能は、電圧検出部あるいは電流検出部、使用する演算 IC の周波数特性や直線性に依存する。
図10 アナログ電力測定器
1.2.2 ディジタル演算処理
信号波形を一度A/D変換し、ディジタルデータを CPU または演算処理専用 IC により演算する。なお、電圧波形と電流波形のサンプリングは正確に一致している必要がある。性能は、電圧検出部あるいは電流検出部の周波数特性(位相)、使用する A/D コンバータの性能とサンプリング速度による周波数特性の上限に依存する。ただし、エイリアシング効果を利用して、サンプリング速度以上の周波数帯域まで測定可能としている場合もある。
図12 デジタル電力測定器
1.2.3 高調波解析機能
デジタルでデータ処理を行う電力測定器では、高調波解析を行う機能を備えるものがある。高調波解析機能を備えた電力測定器では、PLL回路等により、基本波周波数に同期したサンプリングを行う。サンプリングしたデータに対してFFT解析を行い、基本波の倍数成分にある電圧、電流の高調波成分をそれぞれ求め、電力計算を行う。
基本波成分の電圧、電流、有効電力、無効電力は、以下のようになる。
高調波解析機能を利用すると、ひずみ波電圧とひずみ波電流の電力測定において、基本波を含む各次数の電力値を精度良く測定することができる。
参考文献
- 電気測定法、電気学会通信教育会、電気学会
- 電気・電子計測、三好正二、東京電機大学出版局
- 基礎電気工学 交流編、末武国弘、松下電器工学院、廣済堂出版
- 実用 電気用語、北大路剛、廣済堂出版
- 電力計の基礎と概要 TechEyesOnline 第一回、第二回