3-9-2 LCRメータ

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 抵抗・コンデンサ・インダクタは、電子回路の中で必ず使用されている部品であり、電子回路を設計する上で、これらの部品の値を正確に測定することはたいへん重要である。部品の値の測定には、LCRメータを使うのが一般的である。LCRメータは、文字どおり、L(インダクタンス)、C(キャパシタンス)、R(レジスタンス)、Z(インピーダンス)など、主に受動部品のパラメタを交流で測定する装置である。

1 LCRメータの測定原理

1.1 測定原理

 抵抗器は、ほとんどの場合その直流抵抗を測定すれば済むので、通常はテスタやマルチメータなどで、電圧 V と電流 I との比として抵抗値 R を求める(R=V/I )。
 それに対して、コイルやコンデンサは交流で測定する必要がある。交流の場合、電圧と電流が時間とともに変化するため、その大きさだけでなく、位相差を考慮しなければならない(図 1)。

正弦波の波形とベクトル表示の図

 交流における電圧交流電圧と電流交流電流 との比はインピーダンス数式(電圧電流インピーダンスの関係) であり、直流における R が"大きさ"だけで表現できるのに対し、Z は"大きさ"と"位相"の二つの要素を含み、数学的には複素数やベクトルで表す(図 2)。

インピーダンス測定の回路と関係式

 C L などのパラメータは、インピーダンス Z から計算で求めることができる。このとき、電圧や電流の値そのものではなく、比を正確に測定することが重要である。正確に測定できれば、あとは標準器との比較・校正で高い測定精度を得ることができる。
 原理的には電圧と電流とが測定できればよいので、電流検出用の抵抗器(又は電流プローブ)とオシロスコープとを用いて、電流と電圧の大きさと位相差を観測し、インピーダンスを求めることができる。
LCRメータの測定原理は主に自動平衡ブリッジ法とRF I-V法の2つが存在する。自動平衡ブリッジ法はDC~100MHz程度までのLCRメータで使用されている最も一般的な測定原理である。RF I-V法は高周波に対応した測定原理で、100kHz~3GHzの測定周波数のLCRメータが存在する。
 測定周波数が数GHz以上の場合は、ネットワークアナライザと専用の治具を用いて反射係数を測定するか、又は、伝送線路中に直列又は並列に試料を置いたときの伝達関数を測定して、インピーダンスを求めることができる。しかし、この方法で測定できるのは、50Ωを中心としたインピーダンスに限られ、高周波で広範囲のインピーダンスを正確に測定するときは、高周波向けの電圧―電流法が使われている。

 ここでは、高周波の測定や、手動ブリッジによる測定については触れず、低周波用の自動平衡ブリッジ方式について説明する。

1.2 LCRメータの構造

 LCRメータの基本構成を図 3 に示す。

 主な構成要素は、正弦波発振器、電流―電圧変換器、ベクトル電圧比測定部である。試料と基準抵抗の接続点をグラウンド電位に保つハーフブリッジ構成により、ケーブルの浮遊容量などを通して測定すべき電流がグラウンドに逃げるのを防いでいる。
 最近は、ベクトル電圧比測定部を、A-D変換器とデジタル演算器とで構成する機種が多くなってきている。

LCRメータの基本構成

1.3 測定パラメータ

 LCRメータで一般的に測定できるパラメータ間には、表 1 に示すような関係がある。
 ここで、例えば同じ L であっても、等価回路によって値が異なることに注意する必要がある。等価回路を指定しないと、無意味な測定をしてしまうことがある。

測定パラメータの一覧

1.4 等価回路

 LCRメータは、L,C,Rなどの測定パラメータをZとθから算出しており、測定パラメータ値算出の演算式は、図4のように直列等価回路モードか並列等価回路モードかで異なる。直列等価回路モードはCs(またはLs)と抵抗成分Rsが直列に接続していると仮定し、並列等価回路モードはCp(またはLp)と抵抗成分Rpが並列に接続していると仮定して計算している。LCRメータ側では、測定対象がどちらの回路モードなのかを判断することができないため、試料の物理モデルや目的に合わせて、測定者が決めなければならない。物理モデルがはっきりしているときは、例えば「電解コンデンサなら直列等価回路で測る」というように、ほぼ決まっている。なお、多少複雑な等価回路でも、その構造を仮定して多くの周波数で測定することで、各要素の値を求められる高級機もある。

測定パラメータ値算出の演算式(直列等価回路と並列等価回路)

 LCRメータの等価回路モードは上記のように、R成分を計算上で分離するモードのため、LCR複合回路においるLとCの値を分離はできない。基本的なLCR複合回路におけるLとC値の分離はインピーダンスアナライザのように周波数を掃引して測定することで、個々の素子の値を分離することが可能である。

1.5 測定における問題点

 LCRメータを用いた測定で起こる問題は、主に「測定誤差の増大」と「LCRメータの破損」である。
 LCRメータ自身の誤差要因としては、内部基準インピーダンスの安定度や、発振器/電圧測定部/電流測定部の間のクロストーク、信号のひずみ、A-D変換器の非直線性、内部素子の雑音などがある。

 ユーザは、これら内部の要因については手が出せないが、LCRメータ本来の確度に対する追加誤差を考慮する必要がある。本来の確度に対する追加誤差は、「試料との接続方法」又は「周囲からの誘導雑音」などに起因する。また、部品自体の安定性やヒステリシスが問題になる場合もある。

2 試料との接続方法及び誤差補正

2.1 接続方法

 LCRメータの機種によって可能な接続方法は異なるが、代表的な 2端子法と 4端子法について説明する。他に、3端子法、5端子法、4端子対法がある。

2.1.1 2端子法

 接続は容易であるが、接触抵抗、ケーブルの直列インピーダンス(r)、ケーブルや端子間の浮遊容量(Copen)による誤差が大きいため、中間的なインピーダンスでないと、誤差が大きくなる。例えば、数十Ω以下のインピーダンスや 100pF 以下の容量、周波数が数十kHzを超えるような測定では誤差が問題になりがちである。
 直列等価回路で C 又は L を測るのなら、2端子法でも接触抵抗の影響は小さい。

2端子法の回路図

2.1.2 4端子法

 4端子法は、電圧検出ケーブルを独立して設けることで、ケーブルによる電圧降下や接触抵抗の影響をなくし、低インピーダンス時の測定誤差を低減する方法である。一つのクリップに絶縁された二つの電極を持つケルビンクリップを使うと、二つのクリップで容易に 4端子接続ができる。よく使われている方法であるが、試料両端子間の浮遊容量や、電流ケーブル―電圧ケーブル間の相互誘導の影響を考慮する必要がある。

4端子法の回路図

2.2 誤差の補正

 測定誤差を低減するため、LCRメータにはいくつかの補正機能があるが、ここではゼロ補正について説明する。
 LCRメータのゼロ点のずれが測定値に対して無視できないときは、ゼロ補正を行う。
 ゼロ点のずれは、ケーブルや電極の物理的な配置で変化するため、オープン及びショートのゼロ補正は、部品を接続したときと同じケーブルの引き回し、同じ電極間隔で行う必要がある。
 LCRメータの内部では、図 7 a)の等価回路を仮定して、次のような関係式で補正している。

LCRメータ(誤差補正の関係式)

誤差の補正(ゼロ補正)

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