5-4 自動車排出ガス計測器

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5-4-1 大型計測器

5-4-1-1 新型車認証試験用システム

1. はしがき

 自動車排出ガス中には、CO、炭化水素(HC)、NOx、粒子状物質(PM)など、大気汚染の原因となる数多くの成分が含まれている。これに対し、各国・各地域でさまざまな規制がなされている。たとえば、日本においては、新型車及び新車の認証に関する排出ガス規制と、使用過程車(使用途上の車)の排出ガス規制とが施行されている。
 このうち、新型車及び新車の排出ガス規制では、ガソリン車及び2 輪車の型式ごとに、規定モードで運転した際のCO、HC(又は非メタン炭化水素(NMHC))、NOx 排出量が、各成分の質量(g/km、g/test、g/kWh)として規制されている。
 ディーゼル車については、CO、HC(又はNMHC)、NOx、PM が排出ガス成分質量(g/km、g/kWh)で規制されている。このような排出質量の測定のためには、排出ガス濃度の計測器だけではなく、ガスのサンプリング装置などさまざまな専用設備が必要である。

2. 車両・エンジンの運転設備

 ガソリン車・ディーゼル車とも、乗用車や比較的小型のトラック・バス(軽自動車・軽量車・中量車)の試験には、シャシダイナモメータとよばれる設備を使用する。この設備は、路上を走行している状態を実験室内で再現するもので、その上に試験車両をのせ、規制で定められた試験モードを走行する。通常、運転者が車両に乗り込み、目標速度やシフトパターンを表示する専用のモニタを見ながら運転する。また、最近では、自動運転用のロボットを搭載することもある。
 一方、大型のトラック・バス(重量車)の場合は、車両全体での排出ガス試験を試験室内で実施するのは難しい。そのため、エンジン単体を運転できるエンジンダイナモメータと呼ばれる設備を使用する。この場合は、エンジンにかける負荷や回転数が規制で定められたパターンになるよう、外部から制御しながら排出ガス試験を行う。

3. 排出ガスのサンプリング

3.1 定容量希釈サンプリング装置

 車両・エンジンの排出ガスが環境に与える影響を正しく評価するには、排出されるときの濃度ではなく、排出された規制物質の総質量を求めることが重要となる。このためには、排出ガス濃度に加え、排出ガス流量も知る必要がある。実際には、変動の大きいエンジン排気管からの排出ガス流量を測定するのではなく、排出ガスを専用の装置で既知流量に希釈する方法が使用される。このような装置は定容量希釈サンプリング装置(CVS)とよばれ、排出ガス流量を測定する必要がなく、希釈により排出ガス中の結露を防止できるという利点がある。そのため、日本・米国・欧州の各地域で、乗用車・軽量トラック等の排出ガス試験法として正式に採用されている。
 CVS 法では、排出ガスの全量を装置に取り込み、大気を用いて一定流量にまで希釈する。流量の制御には、臨界流量ベンチュリ(CFV)などが使用される。CFV は、ガス流路に設けたベンチュリ前後の差圧を十分に大きくすると、喉部における流速が音速で安定するという原理を応用して、長時間安定した流量制御ができる。このようにして希釈した排出ガスの一部を、試験車両が走行している間一定流量で試料バッグに採取し、試験終了後に濃度を分析する。なお、ディーゼル車からのHCの計測などでは、CVS で希釈したガスはバッグを使用せずに連続測定し、最後に濃度を平均するという手法を用いる。
 排出ガス質量は、ガス濃度と、希釈後の排出ガス容積、密度から求まる。ただし、希釈に用いた大気中にも対象成分が含まれるため、別のバッグに大気をためて濃度を測定し、その分を計算式で差し引く。最近では、排出ガスが非常に低濃度になり、大気のバックグランドに起因する誤差が問題となってきた。このため、大流量用の専用空気精製機をCVS に組み合わせるなどの対応策もとられている。また、米国を中心に、排出ガスの一部を一定比率で希釈するバッグミニダイリュータという手法も採用され始めている。

CVS法の概念図

3.2 希釈トンネルとPM 採取フィルタ

 ディーゼルエンジンの規制対象物質であるPM を計測するには、希釈トンネルとよばれる設備が使用される。これは、大気中に放出されたエンジン排出ガスが冷える過程で、すす等の粒子が成長する様子をシミュレーションするものである。まず、エンジン排出ガス全量をトンネルに導き、温度が47 ± 5 ℃となるよう、一定流量に大気で希釈する。この一部を専用のフィルタに導き、試験終了後フィルタを精密天秤で秤量することでPM の排出量を求める。この方法は、フィルタ重量法とよばれる。
 このように排出ガス全量を採取するシステムを全量希釈トンネル(フルトンネル)という。日本・米国・欧州の各地域の規制で採用され、PM 計測の標準法となっている。しかし、大型エンジンを試験するには巨大な設備が必要である。そのため、最近では、排出ガスの一部だけをサンプリングする分流希釈トンネル(マイクロトンネル)の導入も検討されている。

フィルタ重量法の概念図

4. ガス濃度計測器

 各国の排出ガス規制には、濃度分析に使用する計測器の原理や要求精度も定められている。新車認証試験の場合は、CO には非分散形赤外線吸収法(NDIR 法)が用いられる。この方式は、対象成分分子が決まった波長の赤外光を濃度に応じて吸収する性質を応用するもので、エンジン排出ガス計測のみならず、大気計測をはじめとする多くの分野で応用されている。NOx 計測には、NO とO3 の反応による発光を検出する化学発光法(CLD 法)を用いる。実際に規制されるのはNOx(NO+NO2)であるため、排ガス中のNO2 をNO に変換するためのコンバータと組み合わせる。HC は、水素炎イオン化検出法(FID 法)で全炭化水素(THC)として測定する。NMHC で規制されている場合は、このTHC よりメタンを差し引く。また、必須ではないが一般的に計測される成分として、CO2(NDIR 法)・O2(磁気圧法)があげられる。
 前述のCVS 法でバッグに採取した希釈排出ガスを測定する場合は、サンプル中のH2O は室温飽和以下であるため、分析計やその前処理部分は常温タイプのものが使用できる。一方、ディーゼルエンジンの場合、HC 計測には191 ℃の加熱ラインと加熱型分析部が必要である。そのため、実際の計測にあたっては、測定対象に応じて、前処理装置と各成分の分析部を適切に組み合わせた計測システムが準備される。

5-4-1-2 エンジン開発試験用システム

 自動車やエンジンの研究開発過程においては、規制への適合性確認に加え、さまざまな目的での排出ガス計測が実施されている。たとえば、燃費はCO・HC・CO2・O2などの排出量計測値から計算式で算出するのが普通である。また、エンジンの効率的な燃焼のためには、供給される空気と燃料の比率(空燃比)を適切に制御する必要があるが、この空燃比もガス計測によって求めることが多い。その他、排出ガス中のNOx 低減効果のある排気再循環(EGR)率の算出にはCO2 計測、また広く使用されている三元触媒の基本性能評価には、CO・NOx・HC の計測が欠かせない。基本的に、このような計測には新車認証試験と同様のガス計測器を用いる。ただし、必ずしもサンプル希釈やバッグ計測をおこなう必要はなく、ダイレクト計測(希釈なしでの計測)用のシステムの使用や、連続計測も一般的になっている。
 上記のようないわば「従来」の計測に加え、規制対象外の成分、あるいは新しい計測法による計測の要求も多い。たとえば、最近ではディーゼル排出ガスのNOx 対策として、NOx 吸蔵触媒や尿素を用いる選択還元触媒(SCR)など、新しい触媒が研究されている。これらの評価には、亜酸化窒素(N2O)やアンモニア(NH3)などを含む窒素化合物全般の計測が必要である。また、オイル消費率の計測も注目されており、そのトレーサとして排出ガス中の硫黄分の計測も重要になっている。そのため、フーリエ変換赤外分光分析法(FTIR 法)や質量分析法(MS 法)を用いた多成分連続分析計や、各種の分析法によるNH3計・硫黄化合物計などが使用されている。触媒上での化合物の反応機構をより明確にするため、専用の模擬ガス発生装置を使用して既知成分ガスでの評価をおこなうこともある。さらに、PM 計測に関しても、時間のかかるフィルタ重量法の代替法の要求が強い。そのため、フィルタ上のPM を燃焼させてガスとして分析する燃焼法や、フィルタを用いない連続分析計などが開発されている。また、近年脚光をあびている燃料電池自動車開発においては、高濃度のH2 やH2O という、従来の排出ガスとは異なる組成に対応した計測器が使用される。


 

5-4-2 小型計測器

5-4-2-1 車検場・整備工場用計測器

1. はしがき

 ガソリン・LPG を燃料とする使用過程車(使用中の車)の排出ガス規制では、一酸化炭素(CO)・炭化水素(HC)の排出濃度が対象とされる。また、ディーゼルエンジン大型車については、スモーク(黒煙)排出濃度を基準値以下に保つことが要求される。そのため、一定規模以上の全国の自動車整備工場には、道路運送車両法にもとづく自動車整備検査用検査器具として、車検・整備工場向け排出 ガス計測器の設置が義務づけられている。自動車整備の際、これらを用いて、排出濃度が規定値以下であることの確認がおこなわれる。また、同様の機器は、各都道府県の車検場などの公的機関にも備えられ、整備状況のチェックに使用されている。
 整備・車検用の計測器では、基本的な性能、たとえば測定範囲・精度・安定性・応答速度・暖機時間・耐久性などの基準が定められており、公的機関による検査に合格することが必要である。さらに、これらの基本性能に加え、移動が容易、操作や保守が簡単など、自動車整備工場での使用条件に応じた機能が求められる。

2. CO・HC 計測器

 上述のとおり、使用過程車の排出ガスとしてはCO・HC が規制されている。いずれも、アイドリング時の排出ガスを濃度として計測する。具体的には、計測器のサンプル採取プローブをアイドリング中の車両の排気管に直接差し込み、CO・HC の指示値を読み取る。このように、希釈装置や前処理装置を介さずに直接サンプリングするため、高温・高湿でダストも含むガスを分析機器内部で適切に処理できるように構成される。また、HC はプローブや内部配管に吸着しやすいため、その対策も必要である。
 CO 及びHC の計測原理としては、非分散形赤外線吸収法(NDIR 法)が採用されており、CO は波長約4.6 μm、HC は約3.3 μm 付近の赤外吸収を利用している。このうち、CO は単一成分であり、吸収強度と濃度の関係は1対1である。一方、HC は実際には多くの成分の総称であり、赤外吸収強度もHC の成分ごとに異なっている。そのため、使用過程車のHC 規制では、HC 濃度をノルマルヘキサン(n-C6H14)としての濃度、すなわちノルマルヘキサン換算濃度で表す。また、計測器の実際の感度校正には、ヘキサンよりも安定なプロパン(C3H8)を使用する。なお、ヘキサンとプロパンの感度比は0.490 ~ 0.540 と定められている。

3. スモーク計

 スモークは、排出ガス中に含まれる粒子が光を吸収又は散乱する度合いとして測定される。現在使用されているのは反射式といわれる方法で、ポンプでフィルタに排出ガスを吸引し、その前後のフィルタ表面の反射率変化を測定する。排出ガス中にフィルタを黒く汚染する物質(いわゆる黒煙)が多く含まれるほど反射率が落ちるため、これを尺度とし、スモーク量を0 ~ 10 で表す。測定時は、試験車両の排気管にサンプル採取プローブを差し込み、アクセルペダルを急速に一杯に踏み込んで、エンジンをアイドリング状態から高速回転(空ぶかし)させる。
 なお、欧米では、光路中の光の減衰量でスモーク量を測定する透過式の計測器が使用されている。この場合、スモーク量は不透過率(0 ~ 100%)であらわされ、黒煙以外(青煙・白煙)も計測対象となる。

4. その他の成分の計測

 車検場・整備工場用の計測器のなかには、CO・HC の測定値を用いて空燃比(A/F)や空気過剰率(λ)を算出できるものもある。計算にはCO2 (又はCO2・O2)の濃度値も必要なため、そのための検出器も追加されているのが普通である。CO2 計測はCO・HC と同じくNDIR 法、O2 計測にはガルバニ電池法が一般に使用される。また、NDIR 法などにより、NO の計測をおこなう場合もある。

5-4-2-2 フィールドテスト用計測器

 新車認証の排出ガス試験には再現性が要求されるため、前述のような計測器を備えた室内での試験が普通である。ただし、この方法では、実路走行中の排出ガスの実態を把握するのは難しい。そのため、車載専用の排出ガス計測器が開発されている。この場合も、基本的には従来の実験室用と同じ原理(CO・CO2:NDIR 法、HC:FID 法、NOx:CLD 法)の計測器が使用される。また、排出ガス濃度を質量換算するために排出ガス流量計測が必要となり、ピトー管式流量計なども取り付けられる。これらの機器からのデータを、走行速度・エンジン回転やGPS の位置情報などとともに処理装置に取り込めば、走行条件と排出ガス量の関係の評価ができる。また、欧米では、このような車載型計測器を用いた排出ガス規制も検討されている。


 

5-4-3 その他の関連機器

 新車認証を目的とした排出ガス計測や研究開発時の排出ガス試験では、ダイナモメータやガス濃度の計測器以外にも多くの設備が使用される。それらすべてを個別に管理するのは、非常に煩雑である。そのため、車両・エンジンいずれの試験でも、専用のデータ処理装置を接続して、ダイナモメータ、サンプリング装置、計測器類を一括制御することが多い。濃度分析計の指示は、走行速度、走行距離、エンジン回転速度、吸入負圧などの排ガスに関連する情報とともに装置のコンピュータに送られ処理される。最終的な排出ガス質量も自動的に算出される。さらに、実験室の空調や装置の電源管理も含めた、全自動での無人運転システムが使用されている例もある。

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